主役の料理を引き立てる名脇役といえば“器”です。今回ご紹介するのは、陶芸家の立川玄八(たてかわ げんぱち)さんです。酒蔵や和菓子店、近年話題の店などが立ち並ぶ諏訪市の一角に工房を構えています。古さと新しさが心地よく混在するエリアで作られている器とは。
-佇まいが良い、存在感のある器
シルエットに似合う灰釉の淡い風合いと、立たせた縁のシャープさのバランスが美しい丸皿。信楽の赤土と多治見・土岐の土を配合したオリジナルの土が使われています。よく見ると、皿の縁に何かしらの跡があることに気が付きます。
「これは釉薬に漬け込んだ時にできた指の跡です。本来ならば跡は付けずに綺麗にするのでしょうが、私はあえて残します。どのようにして作ったか追体験できるようなものが好きで」と立川さん。
シンプルな佇まいでありながら静かなる存在感を放つ器は、どんな料理とも相性が良さそうです。
-ものづくりの根底にある「もの派」の思想
立川さんは諏訪市出身で、江戸時代から続く宮大工の家系に生まれました。父は彫刻家・立川義明さんで、ご存じの方もいるかもしれません。
高校卒業後は、東京藝術大学に進学。彫刻科を専攻しましたが、当時は大学のアカデミックな学びに反発心があり、1960年代末から現れたアーティストたちの表現傾向の名称「もの派」に関心を抱き、現代美術に傾倒していくように。もの派では未加工の素材を創造するのではなく、存在する“もの”自体に焦点をあて、あるがままの自然な立体作品が創られてきました。
「器づくりでも、どこか自分の手が届かないところで完成するようなものが好きです。素材の存在感があって、自然であるもの」
インタビュー中に幾度も登場した“存在感”という言葉。その根底には若い時に出合った現代美術の影響しているのかもしれません。
-52歳で陶芸家を志す。第二の人生へ
大学卒業後は広告写真のカメラマンとして働くようになり、ギャラリーから依頼された仕事で陶芸家・樺澤健治さんの作品と出合います。こうして個展などに顔を出すうちに陶芸の魅力にはまっていきました。
この出合いが転機のひとつとなって52歳で陶芸家の道を志し、すでに20年近くが経ちました。
どんな器が理想か尋ねると「佇まいが良いもの。そして器に料理を盛り付けたときの対比やバランスが良いもの」と立川さん。そこにはカメラマンとしての経験も活きているように感じます。
多くは語らず、終始にこやかな表情で接してくれた立川さんは、自然体という表現がぴったり。その人柄が器にも現れているようでした。
石の如く 立川玄八
住所 長野県諏訪市小和田6-7
インスタグラム https://www.instagram.com/gempachi_tatekawa/