信州の“おもてなし”Blog

2024.01.04

佐久市の気候や風土、千曲川の清らかな水が生み出す佐久鯉

佐久地域では冠婚葬祭などのおもてなし料理として、古くから食されてきた「佐久鯉」。その発祥は千曲川流域の桜井地区にあり、現在でもその界隈では佐久鯉の養殖・販売されています。Restaurant溪では「斎武鯉店」から新鮮かつ身の良い佐久鯉を仕入れています。佐久鯉の歴史や魅力、味わい方などを同店3代目の斎藤保弘さんに教えていただきました。

-先人が築いた養殖技術が花開き、全国に名を轟かせた

長野県の名産の中でも知名度が高いブランド魚“佐久鯉”は、天保年間に佐久市桜井地区の呉服商・臼田丹右衛門が大阪の淀川から淀鯉を持ち帰ったのがはじまりといわれています。その後、岩村田藩主の内藤豊後守が大阪から帰る際、豪農・並木七左衛門に土産として淀鯉を渡したことがきっかけとなり、桜井地区で養殖されるように。昔から米作りが盛んだったこの地域では水田を生かした養鯉をされるようになり、田植えを終えた水田に一年魚を放流していました。食欲旺盛な鯉は害虫や水草を捕食する役割も果たしてきました。秋になり田んぼが落水すると、地区のいたるところにある池に移し、二~三年鯉として出荷されていました。
大正時代になると東京に出荷するようになり、昭和初期には「佐久鯉」に統一し、全国一の生産量を誇るように。そして鯉の博覧会や品評会でも日本一の称号を獲得するなど、佐久鯉の名が全国に知られるようになりました。

-よりおいしくするために。飼料の配合に気を配る

今回お話しを伺った斎武鯉店は昭和33年に創業。当時は東京への出荷が盛んな時代で、佐久よりも東京に近い群馬県前橋市や伊勢崎市にも生け簀を作って出荷していた歴史があります。現在は佐久市伴野にある店脇にいくつかの生け簀を設けて養殖・加工・販売しています。
生け簀を見ると、サイズごとに分けられた鯉が悠々と泳いでいるのが見えます。在来種のヤマト鯉と成長が早いドイツ鯉をかけあわせた佐久鯉は、実際に見ると想像より大きくてガッチリとした印象を受けます。

「生け簀には千曲川の水を引き込んで循環させています。冷たい流水でゆっくりと成長するので、身が引き締まっていながらも適度に脂肪が乗っていく。それがおいしいと言われる肉質になります。大切なのは千曲川の水と良質なタンパク源。その配合はそれぞれ業者ごとに異なって、腕の見せ所と言えます」

出荷するのは3年目の鯉でサイズは1.0〜2.0キロで、年間を通じて出荷。旬といわれる9月~翌2月は特に脂がのっています。

鯉が健康に育つには生育環境も大切で、よく運動ができるよう1㎡あたりの個体数を調整したり、適温とされる15〜20℃になるよう暑いときは日陰を作るなどのお世話をしながら出荷サイズまで成長させていきます。

取材中も、親族が遊びに来たから佐久鯉料理を出したいとお客さんが立ち寄りました。斎藤さんは何人分かを確認しながら必要なサイズの鯉を生け簀から引き上げて、その場でカットして提供していました。ほかにも観光客にも喜ばれているのが、佐久市の醤油を使った旨煮や自家製味噌で作る鯉こく、洗い(刺身)です。

-“信州の新しい歴史”をテーマにフレンチで魅せる新たな味

佐久鯉の魅力は、身が引き締まって適度に脂が乗った肉質です。旨煮にすると肉が盛り上がるほどで、見た目にもおいしさが感じられます。ほかにもタウリン、ヒアルロン酸、DHAなどを多くの栄養価を含むことから栄養魚や療養魚とも呼ばれています。佐久地域では昔から「鯉を食べると母乳の出が良くなる」といわれ、特に色鯉(赤)が良いと産後の女性に出されてきました。

あらゆる魅力に満ちた食材で知名度も抜群ですが、食べたことがない人がまだいるのも事実です。そこでRestaurant溪では川魚になじみがない人にどのように味わっていただこうかと模索。“信州の新しい歴史”をテーマに「佐久鯉のフリット」(※1)を考案しました。そこに鯉から取った出汁にレモングラスを加えて、スープ仕立てに仕上げました。川魚からイメージする泥臭さを跳ね飛ばすような爽やかな香りとフワッと口当たりの良い食感のハーモニーが好評です。

長野県内の伝統食材を未来につなぐかけ橋となる料理を目指して、Restaurant溪は今日も食材に向き合っています。


▲佐久鯉料理の一例

※1 信州フレンチのコース料理は、時期によって内容が変わります。ご了承ください

斎武鯉店 代表 斎藤保弘
住所 長野県佐久市伴野997-5
電話 0267-62-0380

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